bach 2005年9月17日(土)、神戸松蔭女子学院大学チャペルにて、バッハコレギウムジャパンによるバッハのソロカンタータの演奏会が行われました。

 オープニングは「カンタータ第35番(アルト独唱)」。第1曲の華やかなオルガン協奏曲で演奏会の幕が上がりました。指揮者の棒が静寂を打ち破った瞬間から心を奪われてしまった。オルガンを弾きながら指揮をしていたのは鈴木雅明氏。現代の巨匠を見ながら、300年前のバッハの姿を想像しました。

 続くプログラムは「カンタータ第51番(ソプラノ独唱)」、「ペルゴレージ『スターバト・マーテル』のバッハによる編曲、詩編第51編《拭い去りたまえ、いと高き御神よ》」。ソプラノとアルト(カウンターテナー)のカンタータに加え、二重唱、それもペルゴレージとバッハという、二人の巨匠によって完成された楽曲が演奏される、非常に贅沢な演奏会でした。

 ところがそれだけでなく、一曲プログラムに追加されていました。

 今年6月7日、若い研究者によってバッハの自筆譜が発見されました。1713年10月にヴィルヘルム・エルンスト公の誕生日プレゼントのために作られたソプラノと小アンサンブルによるアリア。バッハの未知の声楽作品の発見は1935年以来70年ぶりだといいます。その日プログラムに加えられたのは、300年の時を経て日本に渡ってきた、幻の楽曲でした。

 昔、人々に愛されていたであろうそのアリアは非常に美しく、いつまでも聴いていたいという感情にかられました。私は奇遇にも、300年前の作品が、日本で初演されるその場に居合わせたのでした。

 すばらしい演奏と、新しい歴史に出会えた喜びは、演奏会が終わった後もしばらく残っていました。

 バッハを「バッハ(小川)ではなくメール(大海)」と呼んだのは、楽聖ベートーヴェンでした。今、私はただ砂浜から美しく計り知れない大海を眺めています。いつかこの大海原を自由に泳ぎたいという想いを秘めつつ。